多焦点眼内レンズとは
「多焦点眼内レンズ」とは、白内障手術の際に挿入する眼内レンズのうち、近方・中間距離・遠方の2~3点にピントが合うレンズのことを指します。1点のみにピントが合う「単焦点眼内レンズ」と比べて、日常生活において眼鏡が必要になる機会が少なくなります。
多焦点眼内レンズと単焦点眼内レンズの違い
単焦点眼内レンズは、近方・中間距離・遠方のいずれか1点にのみピントが合います。そのため、遠くにピントを合わせた場合には、手元やパソコンモニターなどの近方はぼやけてしまいます。同じように、近くにピントを合わせた場合には、遠方がぼやけます。
多焦点眼内レンズであれば、近方も遠方もピントが合いやすくなり、単焦点眼内レンズのように近方が見えずに困る・遠方が見えずに困るということが少なくなります。つまり、眼鏡が必要になる機会も少なくなります。

二焦点眼内レンズと三焦点眼内レンズ
なお、多焦点眼内レンズのうち、近方と遠方の2点で焦点が合うものを「二焦点眼内レンズ」と呼びます。そして、近方・遠方に加え、中間距離にもピントが合うものを「三焦点眼内レンズ」といい、こちらはさらに高いQOLの実現が期待できます。
多焦点眼内レンズが向いている方
一点のみの見え方で比較すると、実は単焦点眼内レンズの方が優れています。多焦点眼内レンズは、「一点の見え方にはそれほどこだわらず、近方・中間距離・遠方がまんべんなく一定程度見え、できるだけ眼鏡を使いたくない方に向いている」と言えます。
このように、どのレンズが一番いいと言い切れるものではありません。患者様の眼の状態やライフスタイルなどを考慮したレンズを選択することが、最終的なご満足につながります。
当院では、お一人おひとりに合った単焦点・多焦点眼内レンズの提案を行っておりますので、どうぞ安心してご相談ください。
当院で取り扱っている多焦点眼内レンズ
クラレオンパンオプティクス

クラレオンビビティ

インテンシティ

クレオンパンオプティクス
クラレオンパンオプティクスとは、アメリカのアルコン社から発売された、3焦点眼内レンズです。従来から国内で承認を受けていたPan Optixの特徴を引き継いだ上で、アルコンにおける最新の眼内レンズ素材Clareonをレンズに採用し、さらなる長期的透明性を獲得しています。
また、ENLIGHTENテクノロジーを活用することで、遠方の視力を犠牲にすることなく、40~60センチの近方・中間距離にかけて連続してピントを合わせることができます。従来製品と比べても、眼鏡を使用する機会がさらに少なくなります。
コントラスト感度にも優れ、瞳孔径3.0ミリという状況であっても光エネルギーの利用率は88%にのぼります。これにより、どの距離を見るときにも、良好なコントラスト感度が維持されます。
レンズには、瞳孔径への依存度の低い4.5mm回折ゾーンを採用。薄暗い環境であっても、見え方への影響は最小限に抑えられます。
クラレオンパンオプティクスの特徴
独自の光学技術が近方・中間距離・遠方のクリアな見え方を実現
人工光学に基づいたENLIGHTENテクノロジーを活用し、読書・スマホ使用に適した40センチの近方、パソコン使用・料理などに適した60センチの中間距離、テレビ視聴・運転・屋外スポーツなどに適した5メートル以上の遠方にピントが合い、クリアな見え方が実現されます。



レンズの長期的透明性を獲得
新素材Clareonをレンズに使用することで、レンズ内の水泡、レンズ表面の水滴の発生を抑制し、長期にわたって優れた透明性が維持されます。
独自のデザインが手術後の「エッジグレア」リスクを抑制
新技術によって実現したレンズのエッジデザインが、白内障手術後に光の反射で発生しうる大きな光輪・半輪「エッジグレア」のリスクを抑制します。


質の高い乱視矯正を実現
乱視用のレンズには、軸が回転しにくいデザインを採用しています。これにより、より高品質な乱視矯正が可能になっています。
クラレオンビビティ
クラレオンビビティ(Clareon Vivity)は、Alcon社が開発した焦点深度拡張型(EDOF)の非回折式多焦点眼内レンズです。独自の光学設計により、遠方から中間距離までスムーズにピントが合い、ハローやグレアといった光のにじみがほとんど生じないのが特徴です。さらに、コントラスト感度の低下も極めて少なく、自然で鮮明な見え方を得られます。
一方で、近距離の見え方はやや弱く、特にこれまで手元が良く見えていた方は注意が必要です。ただし、日常生活の多くは裸眼で対応可能であり、従来の多焦点眼内レンズでよく問題となるハロー・グレアやコントラスト低下を避けたい方には適した選択肢といえます。
また、コントラスト感度をほとんど損なわないため、黄斑や視神経に疾患を抱える方でも使用できる点が大きな利点です。夜間の運転においても視界が安定するため、夜間活動の多い方にも適しています。
適応範囲については、度数が10.0D~25.0Dに限られているため、強度近視や強度遠視の方には使用できない場合があります。この制約が患者様の適応を狭める要因となります。
クラレオンビビティの特徴
遠方から中間、そして実用的近方距離までスムーズに連続して見える
従来の回折型多焦点眼内レンズは、光の回折を利用して光を「近方」「中間」「遠方」と複数の距離に振り分け、それぞれに焦点を合わせる仕組みです。
一方、波面制御型の焦点深度拡張レンズは、レンズ表面に設けられた「波面制御領域」を活用し、「近方〜中間に対応する進行波」と「中間〜遠方に対応する遅延波」を重ね合わせることで、一つの連続した波面を形成します。
その結果、遠方から近方にかけて自然に焦点が広がり、水晶体の本来の働きに近い見え方を再現できるとされています。これにより、白内障手術後でもより自然でスムーズな視界を得やすくなります。
単焦点レンズ並みのコントラスト感度の実現
多焦点眼内レンズに用いられる回折型の構造では、光を複数の距離に分配する過程で光エネルギーの一部が失われ、それがコントラスト感度(見え方の鮮明さ)の低下につながります。
例えば、2焦点タイプの回折型レンズでは、光の約41%が遠方、41%が近方に振り分けられる一方で、残りの約18%が損失として生じてしまいます。
これに対し、Clareon Vivity(クラレオンビビティ)に搭載されている「波面制御型焦点深度拡張構造」は、光を分割せずに利用できるため、光エネルギーのロスがほとんど発生しません。その結果、単焦点眼内レンズと同等のコントラスト感度を保ちながら、質の高い視覚を得られるのが大きな特徴です。

ハロー・グレアを最小限に抑えることができる
一般的な多焦点眼内レンズは光の回折を利用して複数の距離に焦点を合わせますが、Clareon Vivity(クラレオンビビティ)では「波面制御型」の仕組みが採用されています。
そのため、回折型レンズで問題となりやすいハローやグレアといった異常光視症がほとんど起こらないのが特徴です。
実際の報告でも、こうした異常光視症の発生率はごくわずかで、単焦点眼内レンズとほぼ同等のレベルに抑えられています。
他の目の病気がある場合でも、挿入可能な場合がある
従来の多焦点眼内レンズは、光を複数の焦点距離に分配する仕組みを備えていますが、この特性は黄斑変性症や糖尿病網膜症といった網膜疾患、あるいは緑内障など他の眼疾患の影響を受けやすいという課題があります。その結果、十分に光を活かすことが難しく、こうした疾患を持つ方では多焦点眼内レンズが適応外と判断されることも少なくありません。
一方で、Clareon Vivity(クラレオンビビティ)は単焦点レンズに近い構造を採用しているため、白内障以外の疾患を併発していても、術者の判断に基づき「慎重実施」という形で挿入を検討できるケースがあります。
質の高い乱視矯正を実現
乱視矯正用のレンズは、レンズの軸がずれないように工夫された構造を持っており、その結果、装用時の安定性が高く、精度の高い乱視矯正効果が得られるよう設計されています。
インテンシティとは
5焦点眼内レンズは、従来の2焦点や3焦点眼内レンズが対応していた「遠方」「中間」「近方」の視野に加え、「遠中」「近中」の合計5つの距離でピントを合わせることができる多焦点眼内レンズです。
このレンズは、日常生活で必要な視界をより正確にカバーし、広い範囲の焦点距離にスムーズにピントを合わせることが可能です。そのため、裸眼でも快適に過ごすことができる視界を提供します。
2023年現在、対応するレンズはイスラエルのHanita Lenses社製「インテンシティ(Intensity)」のみです。インテンシティは、2019年にヨーロッパで安全基準をクリアして「CEマーク」を取得し、日本では2020年9月から自由診療として使用が開始された最新の眼内レンズです。
手術後の注意点での注意点
症例によって異なりますが、車のヘッドライトなど、夜間に強い光源を目にしたときに眩しく感じる「グレア」、光のまわりに輪っかが見える「ハロー」などが起こることがあります。
ただし、これは通常、時間が経過するとともに改善されると言われています。